
未知の世界を体験し続けた10日間。
新庄 紗枝/SAE SHINJOU
人間・環境学研究科修了
学生時代、実は私はそれほどクルマに興味を持っていませんでした。大学院で研究していたのは「電池」で、従来のリチウムイオン電池よりも安全で性能の高い、次世代の「全固体電池」の技術の確立に取り組んでいました。将来もこの研究を続けたいと、最初は電池の専業メーカーへの就職を考えていたのですが、電池を使用するEVが今後主流になる自動車業界でも自分の研究が活かせるのではないかと、たまたま募集案内を見かけたHondaのインターンシップに応募したのです。自動車会社のなかでも、Hondaはロボットを作ったり飛行機を作ったりと、少しヘンなことをやっているイメージがあって、どんな雰囲気の会社なのだろうと、ちょっと覗いてみたい気持ちもありました。私が参加したインターンシップは、EVに搭載するIPU(バッテリ、冷却システム、配電系等からなる電動系の電源に関わる部品)の研究開発を行うコース。そこではHondaの技術者の方々に教授していただきながら、電池のセルにはじまり、セルを組み合わせたモジュールやその周辺システムの材料や構造、制御設計の研究開発について一連の業務を体験しました。またインターンシップ中には、実際にHonda車に乗ってテストコースで走行性能を体感するプログラムもありました。
なかった視点や姿勢を学んだ。
大学院での研究開発と、Hondaでの研究開発はまったく世界が違いました。大学院で手がけていたのは純粋な基礎研究で、それをどう商品に結びつけるかという発想などはほとんどありませんでした。しかしHondaでは、研究成果を自動車という製品に搭載できる形にしなければならない。たとえばラボレベルでしか実現できないような性能を出したとしても、それは果たして本当にお客様のためになるのか?と。Hondaの技術者のみなさんは、ただ目の前の技術的な課題を解決するのではなく、最終的にどこを目指すのかという本質を常に考えて仕事に臨まれていました。そうした視点は私にはありませんでしたし、たいへん触発されて、研究開発というのは本来こうあるべきではないかという気づきにもなりました。Hondaの企業風土も興味深いものでした。お会いする技術者の方々がみなさん、誰もが自分なりの確固たる意見を持っていて、一見すると好き勝手やっている印象。社員の方も「Hondaはみんなベクトルがバラバラなんだけど、それでも成り立ってるんだよね」とおっしゃっていました(笑)。それがとても面白く、統率されていないからこそユニークな発想の製品が生まれるのだと、そんな印象を受けました。
それがいちばんの収穫。
Hondaのインターンシップを経験して、私の研究に対するモチベーションが大きく変わりました。以前は、次世代の電池のように遥か未来を見据えた研究がしたいと考えていたのですが、Hondaの技術者の方々と関わって、実際に世の中に出して誰かの役に立たないと研究する意味はない、と感じるようになりました。それは私の就職活動にも大きく影響したように思います。そして、このインターンシップでの最大の収穫は、私のクルマに対する考え方が変わったこと。テストコースで助手席に座ってHonda車の性能を体感したのが、正直いちばん面白かった(笑)。クルマってやっぱり楽しいなと。自分の意思ひとつでどのようにでも操れて、人の行動を大きく拡げてくれる。それまで特にクルマに関心などなかったのですが、すっかり魅せられて、あらためてこの製品に大きな可能性を感じました。現在、私はHondaでEVのバッテリーの研究開発に取り組んでいますが、普及の大きなネックになっているバッテリーの問題を解決して、世界の人々にEVを操る楽しさを味わってもらいたい。そんなワクワクする未来を想い描いて、研究成果を一日でも早く世の中で形にしたいといま頑張っています。
インターンシップは、自分の視野を広げる本当に良い機会です。仕事に対する理解が深まるのはもちろん、その企業の社員の方々と接することで、いろんな考え方に触れ、新たに気づかされることも多い。ぜひインターンシップを有意義に活用してほしいと思います。